【ツールVol.3】~アトツギの新規事業開発の思考法~ 第1回:イノベーションのジレンマ&プロダクトライフサイクル
本日から全13回に亘り、アトツギが新規事業開発を行う上で押さえておくべき思考法やフレームワークについて説明していきます。
記事では概要に加えて参考文献や参考ウェブページを適宜ご紹介していきますので、ぜひそちらもご参照ください。
第一回となる今回は「イノベーションのジレンマ」について説明します。
イノベーションのジレンマとはどういう理論か
「イノベーションのジレンマ」とはハーバード・ビジネススクールのクレイトン・クリステンセン氏が提唱した理論で、顧客ニーズに合わせた継続的な性能向上を提供する(持続的イノベーション)ことで、イノベーション(破壊的イノベーション)に遅れをとることとなり、最終的に失敗を招くという考え方です。
これは大企業が陥りがちな失敗とされています。その理由として以下の3つの理由が挙げられています。
第一に、破壊的な技術は製品の性能を落とすこととなるため、大企業の関心が薄い。
第二に、技術の進歩が市場のニーズを上回ることがあること。言い換えれば市場のニーズは既に満たされているにも関わらず更なる技術の進歩を目指してしまい、性能の低い別の技術が市場のニーズを満たす隙を与えてしまう。
第三に、破壊的な技術による製品は利益率が低いなど、大企業からすると投資する魅力的な対象にならない。
以下では具体例を基に説明していきます。
イノベーションのジレンマの具体例
温かい飲み物を飲みたい時に直ぐにお湯が手に入る電気ポットはすごく便利ですよね。象印やタイガーを始め日本では有名メーカーが昔から手掛ける商品です。元々は手軽にお湯を手に入れたいという顧客ニーズを満たすものでしたが、企業努力により継続的に細かい温度設定機能、安全機能、タイマー機能などが追加されてきました。結果として、多機能で便利な電気ポットが市場に提供されるようになりましたが、その分金額も高くなり、2万円を超える商品も見られます。
ここに破壊的イノベーションとして市場に登場したのがT-falの電子ケトルです。こちらは必要な時に必要な量だけ沸かす機能のみをもつ商品ですが、短時間で沸かすことができ、顧客のニーズを満たすには十分な機能を有しています。そして何より価格面では大きく電子ケトルに優位性があり、結果として多くの顧客がこちらの商品を選びました。
上記の3つの理由に沿って考えると、
第一に、象印やタイガーは多くの機能を電気ポットに実装しており、単に湯を沸かすだけの商品開発に関心が薄かった。
第二に、顧客の「手軽にお湯を手に入れたい」というニーズは既に満たされていたにも関わらず更なる機能追加に注力し続けたことで、T-falのシンプルな機能の商品が市場ニーズを満たす隙を与えてしまった。
第三に、販売価格には大きな差異が存在する。(利益率に関する情報は入手できませんでした)
プロダクトライフサイクルの短縮化
ここで、プロダクトライフサイクルについても少し説明したいと思います。
プロダクトライフサイクルとはジョエル・ディーン氏が提唱した理論で、製品が市場に投入されてから導入期、成長期、成熟期、衰退期を経て衰退するまでのサイクルを体系づけたものです。以下が参考の図となります。
この周期に関しては近年短縮化していると言われています。
下図は2015年に経済産業省が実施した調査の結果ですが、特に電気機械、化学工業の分野において、過去10年でプロダクトライフサイクルが短くなっている、と回答している企業の比率が高くなっています。
さいごに
イノベーションのジレンマは大企業が陥りがちな危険として説明されることが多いですが、これは中小企業にも言えることです。過去の成功体験などに固執し、自らもこのワナに陥っていないか注意が必要かもしれません。
また、プロダクトライフサイクルの短縮化も相まって、常に破壊的イノベーションの創出が求められます。
中小企業は概して大企業と比較して機動力に優れますし、過去の成功体験などに囚われないアトツギこそ新規事業を通じて破壊的イノベーションを推進していく担い手としてふさわしいかもしれません。
【参考文献】
クレイトン・クリステンセン、玉田俊平太 監修/伊豆原弓 訳(1997)『イノベーションのジレンマ』 株式会社翔泳社
【参考ウェブサイト】
イノベーションのジレンマとは・意味|創造と変革のMBA グロービス経営大学院
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11714.html
3分でわかる『イノベーションのジレンマ』「見えない市場に小さく挑戦できる組織をつくる」 | 戦略の教室 | ダイヤモンド・オンライン
https://diamond.jp/articles/-/58187
第1部第1章第3節 市場の変化に応じて経営革新を進め始めた製造企業:2016年版ものづくり白書(METI/経済産業省)
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2016/html/honnbunn/101032_1.html