2021.03.22
事業開発ツール

【ツールVol.12】~アトツギの新規事業開発の思考法~ 第10回:競争優位の源泉とは

前回は、アトツギが新規事業開発を行う上で有効なフレームワークのひとつとして”リボンフレーム”をご紹介し、課題や家業の強みから事業の根拠となる点を抽出する事に活用できることを学んでいただけたと思います。

リボンフレームで抽出した根拠を基にビジネスモデルをブラッシュアップしていく過程で必要となってくるのが「競争優位の源泉」を理解することです。

 

新規事業の戦略を策定することにおいて、実現可能性が検討されていなかったり、戦略を実現する際の内部の仕組みを軽視していたりすることがあります。また模倣可能性について考慮しておらず、いざサービスローンチ後に競合にいとも容易く事業を真似される、といったケースも少なくはありません。

 

今回は、「戦略の背後で何が機能する(している)のか。」、「競争上で自社の優位性を見極めることが非常に大切である」ということを説いていきます。

 

競争優位の源泉を理解するとは?

具体的には、自社のオペレーションの仕組みや流通の仕組み、パートナー先、収益構造などを深く知ることが大切であるということです。それらを深く知った上で、開発する新規事業では、どのオペレーションの仕組みを採用するのかなど検討していきます。

 

自社の競争優位の源泉を把握するためにはVRIO分析の活用が有効

自社の優位性を見極めるために有効なビジネスフレームワークがあります。

VRIO分析と呼ばれるもので、アメリカの経営学者ジェイ・B・バーニー(Jay B. Barney)氏が1991年に発表した、企業内部に存在する経営資源が保有する強みの質や競争優位性を明確にし、競争優位性の維持や強化、市場シェアの拡大など様々な効果を得ることができるとする戦略論「 リソース・ベースト・ビュー 」(B・ワーナーフェルト提唱)の代表的なフレームワークの一つです。

 

VRIO分析では、この経営資源(リソース)を

 

価値(Value)

希少性(Rarity)

模倣可能性(Imitability)

組織(Organization)

 

の4つの視点から評価することで、 企業内部に存在する強みの質と市場における現在の競争優位性を見極め 、競争優位性の維持や更なる向上に向けた効果的な施策を講じることをねらいとしています。

 

Value(経済性)…

機会(チャンス)を活かすことができるか、競合の強みを無力化できるか、脅威(ピンチ)を無力化できるか

Rarity(希少性)…

その資源を持っている企業や活用しているケースは少ないか?

Inimitability(模倣困難性)…

競合がその資源を活用しようとした場合に大きなコストが必要か?またその資源を保有することでコスト上不利な状態になるか?

Organization(組織)…

資源を有効に活用するための組織体制(仕組みやルール、制度、運用フロー)は整っているか?

 

 

活用する経営資源(リソース)を上記のフレームワークに沿って評価します。

手順としては、

①分析の対象となる資源を設定し、縦軸にプロットします(上記画像では、人材・技術開発、資金調達など)。

②各資源についてVRIOに従って情報収集や評価を行います(◯、×、△などで評価)。

③評価を終えたら、現状強みとしている経営資源は何か、どの資源を強化することで競争優位性を見出していくのか、各資源について今後どのように強化していくのかなどといった対策の方向性を整理します。

こちらを実際の例で表してみると下のような図になります。

画像:小野義直,宮田匠( 2018)「ビジネスフレームワーク図鑑」株式会社翔泳社を基に筆者作成

 

アトツギが新規事業開発を検討する際には特にValue、Rarityなどに目が行きがちで、いかに経済価値のあるものを作り上げるかであったり、希少なものかどうかのポイントに傾斜しがちですが、InimitatabilityやOrganizationの視点も持って、広い視野で戦略を練ることが大切です。

 

競争優位の源泉を理解した上での成功事例

ヤマト運輸の宅急便がサービス開始したのは1975年です。今では当たり前にある個人向けの宅配サービスですが、その当時の民間業者はどこも宅配事業はやっていませんでした。

 

理由は大きく2つです。

①当時の個人向け宅配マーケットは官である郵便小包が独占していたこと

②小口荷物は、集荷・配達に手間がかかり採算が合わないこと

「小口荷物は、集荷・配達に手間がかかり採算が合わない。小さな荷物を何度も運ぶより、大口の荷物を一度に運ぶ方が合理的で得」「絶対に赤字になる」 というのが業界の常識でした。

 

1960年代後半以降、全国的な高速道路の整備によって、当時ヤマト運輸の主力事業であった長距離輸送には競合他社がたくさん生まれました。

加えてオイルショックによる追い討ちにより、ヤマト運輸の業績は低迷します。

当時の代表取締役社長であった小倉昌男氏は、競争優位の源泉をしっかりと分析した上で、個人向け宅配サービスに着手します。

 

商業向けと個人向けには「集荷の発生が反復か偶発か」「配達先が決まっているか否か」「1件あたりの集荷ロットが大きいか小さいか」といった違いがあります。これらの違いを要因として、当時個人向け宅配サービスは「絶対に赤字になる」というのが業界での常識だったようです。また、既に存在していた郵便小包は配達までに早くても3日掛かる、というのが当時の状況だったようです。

これらを踏まえて、小倉氏は個人向け宅配サービスの為に小規模多店舗型の方針を取り、全国規模で輸送インフラの整備に取り組みました。

これにより、個人向け宅配でありながら総量としては大量の荷物を取り扱うことができ、また翌日には配達できる、という画期的なサービスを実現させることになります。このシステムこそが正にヤマト運輸の競争優位の源泉になり、その後多くの市場参入者が現れましたが、その多くはヤマト運輸の簡単には真似できない競争優位性に阻まれ、市場から撤退していくこととなりました。

 

さいごに

今回の記事では、アトツギが新規事業開発を行うにあたり、商品・サービスの経済価値や希少性に着目しがちで、模倣困難性や組織についても深く検討した上で、オペレーション・流通・パートナー・収益構造などの戦略も練らねばならないということをお伝えしました。

 

VRIO分析を行うに際しては、家業の経営資源(リソース)を知る事をもっと深掘りして、家業がどこからどのように仕入れ、どこでどのようにサービスを提供し、収益はどう生まれているのか、組織はどのような人材で構成されていて、パートナーは誰か、など家業の構造を深く知った上で、分析を行わなければならないと考えます。

そこを検討せずに作り上げた新規事業は、大抵は他企業に容易に模倣され、それが大企業であれば先発優位性を一瞬にして覆される可能性もあります。

 

今回お伝えしたことをご理解いただいた上で、次回は実際に手を動かしてビジネスモデルキャンバスを書き、新規事業のビジネスモデルについて深く考察していきましょう。

 

【参考文献】

小野義直,宮田匠( 2018)「ビジネスフレームワーク図鑑」株式会社翔泳社

【参考ウェブサイト】
BizHint 用語解説
https://bizhint.jp/keyword/128183

日経BizGate 「競争優位の源泉は有機的な組織力」
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO3115435030052018000000

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