2022.05.06
研究レポート

何歳で事業を引き継ぐのが良いのか?

何歳で事業を引き継ぐのが良いのか?問題を深掘りしてみた

 

アトツギ総研では2021年9月13日に「若手アトツギ意識調査~事業承継におけるリアルな課題~」というタイトルで事業承継に関するアトツギのリアルな声をレポートしました。

その中で「事業を引き継ぐのに適した年齢」に関する質問への回答の平均が35歳となったことを報告しましたが、それに対して「そんなに若く?」「早すぎない?」などといった反響が寄せられました。

ひょっとすると継がせる側の意識や世の中の実態とアトツギの思いとの間には大きな乖離があるのではないか?!という疑問を抱いたアトツギ総研ではこの問題について少し深掘りしてみることにしました。

 

そもそも何歳で承継するのが一般的なの?

少し古いデータにはなりますが、「中小企業の事業承継に関するアンケート調査(2012年11月、(株)野村総合研究所)」が現経営者に対して実施した調査によると、自身が承継した時点の年齢の平均は50.9歳とされています。これはアトツギの希望する35歳とは約16歳もの差があります。

もちろん、様々な事情により実際には希望する年齢の通りに承継ができるケースばかりではありませんが、世の中の実態とアトツギの思いとの間には大きな隔たりがあることは間違いなさそうです。

 

何歳で承継するのが良いのか?

では、何歳で承継するのが良いのか、という点ではどうでしょうか?

まずは、事業承継経験者である元アトツギはどのように感じているのかというと、「中小企業の事業承継に関するアンケート調査(2012年11月、(株)野村総合研究所)」によると、自身の事業承継を振り返って「ちょうど良い時期だった」と回答した現経営者の承継時の平均年齢は43.7歳というデータがあります。先ほどの50.9歳よりは大きく若返りましたが、それでもアトツギの思いとはまだ約8歳の差が存在します。

次に企業の業績という観点ではどうでしょうか。2018年に東京商工会議所が公表した「事業承継の実態に関するアンケート調査」では、事業を引き継いだ年齢と事業承継後の業況変化について調査結果がまとめられています。

 

こちらの結果からは、30代で引き継いだ場合、最も多くのケースがその後業績を伸ばしていることが分かります。一方、20代で引き継いだ場合では業績が悪くなったケースが最も多いことも読み取れます。つまり、承継後の企業の業績という観点では、30代で引き継いだ経営者が最も伸ばしている一方で若ければ若い程良い、というわけではないと言えそうです。

 

アトツギはなぜ35歳での承継が良いと思うのか?

 

ところで、アトツギが35歳で事業を承継したいと考える理由は何でしょうか?

 

まずはアンケート結果を見ていきます。

冒頭で述べた通り、「事業を引き継ぐのに適した年齢」に対するアトツギの回答の平均は35歳(中央値も35歳)となりました。回答したアトツギの平均年齢は31歳でしたので、4年後には事業を承継したいと考えていることになります。また、40歳代以降と回答した人は少数で、実に84%以上が30歳代までと回答しています。

 

この質問で併せて聞いている「そう考える理由」への回答内容は大きく

①現代表の年齢を考慮して

②準備期間として適切だから

③早ければ早いほどいいから

の3つに区分することができました。

それぞれの回答をされたアトツギに詳細をヒアリング調査した結果を以下に記載します。

 

①現代表の年齢を考慮して (35歳 卸売業 男性 入社済未承継 / 回答:40歳)

事業承継のタイミングは現経営者の能力が一番のポイントになると考えています。

高齢になると経営者としての判断能力も衰えてくるので、現代表である父が自分の判断で潮時だと考えるタイミングで交代してもらうのがベストだと思います。

 

一方で、仮に今のタイミングで代表交代となっても、今の自分の能力では上手く経営できないとも思います。希望としては自分が40歳のタイミングで代表を交代してもらいたいです。

代表になると今よりも既存事業にリソースを割く必要が出てきて、新規事業など新しいことへの挑戦に掛けられる時間がどうしても減ってしまうと思います。ですので、それまでの間にアトツギという立場を上手く利用して新しいことにチャレンジしていきたいです。

 

②準備期間として適切だから (33歳 製造業 男性 入社済未承継 / 回答:35歳)

業界の慣習や家業の現状をある程度理解した上で、とはいえ年を取り過ぎないタイミングで事業承継するのが良いと考えています。

若いうちに代表交代すれば、周りにも年長者が多いためアドバイスをもらえる機会も多くなり、また自分から周りに聞く場合も若い方が聞きやすいということもあります。逆に年を取ってからはこういった学習機会を得にくくなる可能性があるのではと思います。

一方で、若い経営者の場合(業界や家業での経験が浅いと)判断が合理的になりすぎるというリスクもあると感じています。これまでの歴史や慣習を踏まえると、必ずしも合理的判断が正しいとは限りません。

家業で一定の経験を得た上で、かつ若いことのメリットを享受できるタイミングがベストではないかと思います。

 

③早ければ早いほどいいから (32歳 卸売業 男性 入社済未承継 / 回答:35歳)

個人的には事業承継のタイミングは早ければ早いほどいいと考えています。

若くして代表になると能力不足の問題もあるかもしれませんが、立場が人を作ると思いますし、早く代表という立場から見える景色を見てみたいです。また、当社の客先も経営者の若返りが進んでおり、代表が高齢のままだと客先と話が通じにくい部分も出てきていると感じます。

 

アトツギはいい意味で最終的な責任は代表に持ってもらいながら、家業の経営資源を用いて挑戦のできる、恵まれた立場だと思います。ですが、それは特に既存事業がしっかりしているなど、安定した企業に言えることだと考えています。

当社の場合は、業界的にも縮小傾向にあり、一刻も早く手を打たなければ企業の存続自体が危ぶまれる状況です。ですので、できるだけ早く代表を交代し、自分が主導して生き残りのための施策を打っていきたいと考えています。

もしそれが上手くいかず、結果的に廃業を選んだとしても、代表交代が早ければその分廃業を決断する年齢も若くなると思いますし、その後の個人的なキャリアの可能性もまだ残されるのではないかと思います。一方で、代表交代が遅くなり、廃業を決めるタイミングも遅れることで、自身のキャリアの可能性にも影響してしまうことを危惧しています。

 

 

今回ヒアリングさせて頂いたアトツギはそれぞれ回答した年齢も、またその理由も異なりますが、興味深いことに経営者である父親のもとでアトツギとして経験を積む、いわゆる「並走期間」では6-8年となる年齢のタイミングを回答しており比較的近い期間となっています。

 

アトツギは35歳で事業承継をしたいと考える一方で、世の中の実態は50.9歳、元アトツギの考える良いタイミングは43.7歳とそれぞれ大きな乖離があることが分かりました。また、単に年齢だけではなく、並走期間も一つのポイントとなるかも知れません。

タイトルにある問い「何歳で事業を引き継ぐのが良いのか」についてはそれぞれ状況も異なり最適解は存在しないと考えますが、アトツギの思いや30歳代で引き継いだケースがその後最も業績を伸ばしていることも踏まえながら、是非、現経営者とアトツギ、当事者同士で議論されてみてはいかがでしょうか。

 

<最後に>
当団体では、入会時に34歳未満のアトツギ(候補者)であることを条件とした「アトツギU34」というオンラインサロンを主宰しております。ここには全国から様々な業種の家業を持つアトツギが集い、日々ディスカッション等を通じて交流が行われています。

加えて、メンターとして多くの先輩アトツギ経営者もこのコミュニティに属しており、若手アトツギが直面する課題などに対して、先輩からの経験シェアという形で課題解決のヒントを提供しています。特に新型コロナ以降、サロン内のオンラインでの活動が活気づいており、全国どこからでも参加頂きやすい環境となっています。ご関心をお持ちの方、またはお知り合いにご紹介されたい方は是非下記リンクよりオンラインサロンのご案内をご参照ください。

<アトツギU34オンラインサロン>
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【アトツギ総研とは】
「アトツギ総研」は、一般社団法人ベンチャー型事業承継のこれまでの取組みを通じて得た知見や定量データなどを用いて、アトツギが家業で新規事業開発に取り組む中で直面する課題に対して、その解決に資する情報提供を行うために設立。
アトツギの直面する課題の解決の糸口を作ること、およびベンチャー型事業承継の普及の両輪をまわすことで、成長意欲の高い若手アトツギの挑戦を支援するプラットフォームの早期実現を目指す。
https://take-over.jp/labo

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