2021.03.10
事業開発ツール

【ツールVol.10】~アトツギの新規事業開発の思考法~ 第8回:潮流から汲み取る④バックキャスティングとフォアキャスティング

第5回から「潮流から汲み取る」と題し、時代の変化をどう捉え、ビジネスに生かしていくかというテーマでお送りして参りましたが、今回はこのテーマの最後として「バックキャスティングとフォアキャスティング」を取り扱います。

バックキャスティングとフォアキャスティングとはなにか?

バックキャスティング、フォアキャスティング、それぞれあまり聞きなれないと思われる方もおられるかもしれませんが、言葉で説明すると以下のようになります。

バックキャスティング:未来の姿を起点にして、そこから逆算して今できることを考えること。できない理由を考えるのではなく、出来た時のことを考えるのが重要。
フォアキャスティング:現在を起点にして、現状や過去のデータを基に将来を予測すること。確からしさを求めるために現状の「変わらない理由」にこだわりがちになります。

また、よりイメージを深めるため絵で表現するとこのようになります。

バックキャスティングとフォアキャスティング

こちらは山登りに例えた絵ですが、バックキャスティングでは頂上、つまり理想とする未来の姿から現在を振り返り、進んでいく道を考えるのに対して、フォアキャスティングでは現在から未来に向かって都度正しそうな方向を判断し、進んでいくことが分かるかと思います。
それぞれ違う進み方を選択するように表現されていますが、バックキャスティングに描かれているように、理想の姿(登りたい頂上)から麓を見ると予想していなかったルート(新規事業の芽)が見えたり、登頂のためには何が必要かを考え、そのために使用するリソース(家業の強み、あなたの強み、アセット)が明確になるということが考えられます。

世の中の事例に見るバックキャスティング

PayPalやテスラといった世界的な企業の創設者として知られるイーロン・マスク氏(以下、マスク氏)をご存じでしょうか?ZOZO創業者である前澤氏が民間人として初めて月に旅行することが話題になったのは記憶に新しいかと思いますが、その旅行を提供する会社がスペースXというマスク氏が創業したロケット研究開発などを主な生業とする企業です。
マスク氏はスペースXの事業を通じた「火星移住計画」を2016年に公開しました。将来的には100万人もの人類が火星に住み、働くようになるというものです。マスク氏は今後地球の人口が増え続け、資源の枯渇や食糧問題といった危機が起こった時のために、人類が別の惑星にも住めるようにしておくべき、という考えを持っており、「人類は複数の惑星の住人になる」という世界を実現しようとしています。
火星に住む、という発想はなかなか現在を起点とした考えからは出てこないものですが、マスク氏は正にバックキャスティングの発想で、人類にとっての将来のあるべき理想(複数の惑星に住めるようにしておくことで地球に何かがあっても生き延びられる)を基に、重力や大気があり、比較的住むのに適していると言われる火星に人類が移住するための事業を行っているのです。

アトツギとバックキャスティング

アトツギには家業のもつ経営資源があります。これは新規事業を行う上で大きなアドバンテージとなります。一方で、どうしても今あるもの、持っているものを起点として何ができるか考えがちな傾向も否めないと思います。まずは、自分の目指す理想を考え、そこに家業のもつ経営資源をどう活用していくか、というバックキャスティングの発想から考えてみることも是非試してみてください。

これまで4回に亘ってお送りしたテーマである「潮流から汲み取る」では、環境の変化が激しいVUCAの時代においてはニーズへの対応、顧客の求めるものやサービスの提供といった旧来のやり方では事業の持続が困難になってきていることを述べてきました。一方で、SINIC理論を用いて説明した通り、世の中の変化は大きな流れに沿って起こっていると考えることができます。こういったことを踏まえた上で、上手く時代の流れとその変化の兆しを捉えつつ、自分軸を持ち、自分が目指す理想と合わせていくことが重要となるのではないでしょうか。

【参考ウェブサイト】
イーロン・マスクが描く「火星移住計画」の衝撃
https://diamond.jp/articles/-/169684

イノベーションの成功確率は「1000分の3」の世界
慶大・前野隆司教授が説く、打率を上げる思考法
https://logmi.jp/business/articles/322470

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