2021.09.13
研究レポート

若手アトツギ意識調査~事業承継におけるリアルな課題~

<調査の背景>
これまで事業承継に関する調査は事業を渡す側である現経営者に焦点を当てたものが多く、事業を受ける側であるアトツギに関する情報は限定的であった。当調査は、この状況を踏まえ、対象者を若手アトツギに絞り、事業承継の検討から実行における課題を調査、分析することで、今後の当団体におけるアトツギ支援に資する情報を得ることを目的として実施した。

<調査の概要>
・調査期間:2021年7月22日~8月23日
・調査方法:匿名アンケート調査
・調査対象:アトツギU34オンラインサロン※メンバー
※ベンチャー型事業承継が主宰する入会時34歳未満のアトツギを対象としたオンラインサロン
・調査方法:匿名アンケートをオンライン上で配布、回収
・回収件数:119件


<調査対象者の属性>
1.年齢

age

2.家業の業種

industry

3.家業の従業員数

number of employees

4.事業承継ステータス

status


<調査結果ハイライト>
・アトツギが考える事業承継に適した年齢は35.3歳(平均)、また80%以上が30代を回答
・アトツギが事業承継するかどうか検討する際に重視したこと一位は「事業の将来性」(47.9%)
・アトツギが事業承継において苦労しそうなこと一位は「事業の将来性」(58.8%)

<調査結果詳細>
1.事業承継をするかどうかについて検討する上で重要だったポイント(複数回答可)

Q1
・「事業の将来性」57人(47.9%)が最多となり、「家業以外のキャリアの選択肢との比較」52人(43.7%)、「自身の経営者としての資質」44人(37.0%)の順で続く

・「事業の将来性」の具体的な内容として、「事業と収入面での将来性を感じた」、「当時業績が右肩下がりだったが、海外市場での将来性を感じた」、「事業の伸び代も大きく将来性を感じた」などが挙げられた

・「家業以外のキャリアの選択肢との比較」の具体的な内容として、「(前のキャリアを捨てるのは勿体ないという思いはあるが)それ以上に実家に帰ろうと思える要素があった」、「(前職と)比較した際の安定性の差には悩んだが、家業は自分にしか継ぐことができないとの自負から」などが挙げられた

・「自身の経営者としての資質」の具体的な内容として、「経営者として素質があるのか、きちんと運営を行っていくことが出来るのか不安」、「家業を継ぐに当たってのスキルが自分にあるのかは不安」などが挙げられた

・「家族の意見」(35人、29.4%)の具体的な内容として、「(公の場で)父親が突然ついで欲しいと発言した」、「(両親に相談した時に)会社手伝ってくれてもええよと言われた」などが挙げられた

・「収入」(22人、18.5%)の具体的な内容として、「収入が下がることが悩みのポイント」、「家業や家の資産を守っていくにはサラリーマンの収入では厳しい」などが挙げられた

・「他の候補者」(13人、10.9%)の具体的な内容として、「弟を後継者にと父は考えていたが弟が反発し家を出たため」、「社内には後継者がいなかった」などが挙げられた

・「その他」(35人、29.4%)の具体的な内容として、「家業に戻ることは当たり前」、「小学生の頃から決めていた」、「跡継ぎと幼い頃から言われていた」など、家業を継ぐことを当然と考え、事業承継を検討した経緯がないという回答などがみられた

2.自身にとって事業承継するのに適したタイミング(年齢)

Q2
・回答の平均は35.3歳
・30代後半が50.9%で最多となり、30代前半が30.7%で続く
・40代以降と回答した人は15.8%、特に40代後半以降と回答した人は0.9%と少数
・30代を選んだ理由としては、「十分な経験を積める時期」、「業務内容の把握に期間を要する」、「若いほうが良い」、「(若い方が)新しいことに取り組める体力、気力が十分ある」などが挙げられ、30代が経験と若さのバランスが良い時期と捉えられている

3.事業を引き継ぐにあたって苦労しそうな(した)こと(複数回答可)

Q3
・「事業の将来性」(72人、58.8%)と回答した人が最も多く、「自身の経営者としての資質」(68人、57.1%)がそれに次いで、いずれも過半数がこれらを課題として挙げた

・「事業の将来性」の具体的な内容として、「事業の将来性はとても低いので、自分がなんとか違うことをしなければ存続は難しい」、「今のやり方では生き残れない」、「現在の事業が先細りとなる可能性が高い」などが挙げられ、新規事業の必要性について言及するものが多くみられた

・「自身の経営者としての資質」の具体的な内容として、「経営層になるのは初めてで資質があるかはわからない」、「1番の悩みは自分に経営者としての資質があるかという点」などが挙げられた

・「既存の社員の理解」(44人、37.0%)の具体的な内容として、「家業の従業員の年齢層がかなり高いのでその中に入って認めてもらえるのか、コミュニケーションがうまくとれるのかという不安」、「現在では合わなくなってしまった会社の文化を変化させることへの古参社員の反発 」などが挙げられた

・「株式の承継」(35人、29.4%)の具体的な内容として、「株式が親族に分散されている。今後親族から買取をしていかねばならない」、「株式が分散しておりそこから買い集めていくとなると手元に現金がかなり必要」などが挙げられた

・「相続税などの税金対策」(32人、26.9%)の具体的な内容として、「相続税などについて知識がない」、「相続前に詳しい話がしにくいこともあり、詳細が詰まっていない。父も自分が死んだときの話を事細かに今話すのは抵抗ありそう」などが挙げられた

・「親族の理解」(28人、23.5%)の具体的な内容として、「新しい事業展開の中で親族の理解を得ることが難しい分野が一部ある」、「親族が家業に入る予定だが、連携に困りそうと漠然とした不安」などが挙げられた

・「権限の承継」(27人、22.7%)の具体的な内容として、「社長の趣味が無いので干渉が多そう」、「権限の委譲が実質的になされるか不安」、「会長の父がまだまだ社長として動いてしまうので、それを引き継ぐのに苦戦」などが挙げられた

・「銀行借り入れに対する個人保証」(27人、22.7%)の具体的な内容として、「借入金が非常に大きいので、引き継ぐことに不安がある」、「個人保証は個人的に負担に感じている」などが挙げられた
・「その他」(16人、13.5%)の具体的な内容として、「女性後継ぎとなると社内外の反発があるのではと危惧」、「女が社長ということで社員を不安にさせてしまう」といった、女性アトツギ固有の課題などが挙げられた


<考察>
冒頭に「調査の背景」で述べたように、事業承継に関する調査は一般的には事業を渡す側である現経営者に対して実施されるものが多く、事業を譲り受ける側であるアトツギに関する情報は非常に限られているのが現状です。
アトツギ総研では、当組織の母体となる一般社団法人ベンチャー型事業承継が主宰する、34歳未満のアトツギに特化したオンラインサロン、「アトツギU34」に属する全国の若手アトツギとのネットワークを有しており、アトツギのリアルな声を調査、分析し、それを世の中に発信することが我々にとって重要な責務であると考えています。
今回の調査は、現経営者とアトツギとの間に事業承継の課題の捉え方や考え方に相違があるのではないか、との仮説に基づき実施したものとなります。現経営者に対する既存の調査内容を踏まえた内容となりますので、以下はそれらと合わせて考察を行います。

2020年9月14日に帝国データバンクが公表した「事業承継に関する企業の意識調査」において、「事業承継で『苦労したこと』『苦労しそうなこと』ともに後継者の育成がトップ」という見出しの項目があります。

事業承継の上で苦労したこと

上表はそちらからの抜粋です。ここでは、事業承継で苦労したこととして「後継者の育成」を筆頭に、「相続税・贈与税などの税金対策」、「自社株などの資産の取扱い」が挙げられています。これに関して、アトツギに同じ質問をした結果は上位より「事業の将来性」(58.8%)、「自身の経営者としての資質」(57.1%)、「既存の社員の理解」(37.0%)となりました。

それぞれの回答を比較すると、「事業承継に関する企業の意識調査」で1位となった「後継者の育成」については、アトツギが2番目に多く挙げた「自身の経営者としての資質」と対応する課題であり、両者の認識が一致していると言えます。一方で、最も多くのアトツギが挙げた「事業の将来性」については「事業承継に関する企業の意識調査」では「事業の将来性や魅力の向上」(21.8%)が7番目と相対的に少ない回答となり、課題意識が現経営者と次世代経営者とで必ずしも一致していないことが分かりました。
今回の調査で回答に付されたコメントとして、「父親との意思疎通が一番難しい」、「(父親と)腹を割って話すことが難しい」、「父親の意向が不明」といったものが複数見られましたが、事業承継における現経営者とアトツギとのコミュニケーション不足が、互いの課題認識の不一致を生じさせる要因の一つと言えるかもしれません。

また、「事業の将来性」に関連して興味深い調査があります。2018年に東京商工会議所が公表した「事業承継の実態に関するアンケート調査」において、「後継者の年齢が30代の間に経営の承継を検討すべき」という見出しの項目があります。

承継した年代と業績

上図はそのレポートからの抜粋で、事業を引き継いだ年齢と事業承継後の業況変化を示したものになります。ここでは30代で承継した経営者は他の年代で承継した経営者と比較して事業承継後に業況を好転させている傾向が強いことが示されています。また下図では、30代で引き継いだ経営者は新商品・新サービスの開発といった新しい挑戦にも積極的であることも示されています。

新しい取組

当調査のデータに拠ると承継後の企業の業績という観点では、30代が代替わりに最も適したタイミングであると言えます。

今回我々が実施した調査ではアトツギに対して事業承継に適した年齢についても質問しています。結果としては、回答の平均は35.3歳、80%以上が30代を回答し、アトツギの感覚の正しさがデータに裏付けられた形になりました。多くのアトツギが課題として捉えている「事業の将来性」については、30代で承継することが一つの解決策となり得るのではないでしょうか。

当然ながら企業により前提条件が大きく異なり、一概に何が正しいと言えないのが事業承継の難しさではあります。一方で、これらのデータが示す事実も参考にしつつ、そして何よりも事業を譲り受けるアトツギ側の意見や考えも正しく理解し、踏まえた上で意思決定を行っていくことが必要と我々は考えます。

<最後に>
当団体では、入会時に34歳未満のアトツギ(候補者)であることを条件とした「アトツギU34」というオンラインサロンを主宰しております。ここには全国から様々な業種の家業を持つアトツギが集い、日々ディスカッション等を通じて交流が行われています。加えて、メンターとして多くの先輩アトツギ経営者もこのコミュニティに属しており、若手アトツギが直面する課題などに対して、先輩からの経験シェアという形で課題解決のヒントを提供しています。
特に新型コロナ以降、サロン内のオンラインでの活動が活気づいており、全国どこからでも参加頂きやすい環境となっています。ご関心をお持ちの方、またはお知り合いにご紹介されたい方は是非下記リンクよりオンラインサロンのご案内をご参照ください。
<アトツギU34オンラインサロン>
https://atotsugi-u34.jp/

【参考レポート(画像引用元)】

事業承継に関する企業の意識調査(2020年) | 帝国データバンク

https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/p200904.html

事業承継の実態に関するアンケート調査 | 東京商工会議所

http://www.tokyo-cci.or.jp/page.jsp?id=113365

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