【コラムVol.1】~アトツギは、「マスオさん」が有利~
コラムの概要
事業承継の後継者候補としては、「息子」・「娘」といった血縁者に加え、「血縁のない親族」や「同族外経営者」が考えられます。
これらの内、「誰が継ぐのが良いのか」というのは一概に言えませんが、このコラムでは企業の成長という観点からこの問題を検証してみようと思います。
検証にあたっては2013年にファイナンス分野のトップ学術誌である「ジャーナル・オブ・エコノミクス」に掲載された論文を参考にしています。
検証の結果
ジャーナル・オブ・エコノミクスによると、1,367社を対象とした分析の結果、最も成長したのは創業者が経営する企業であり、その後、血縁のない親族が経営する企業、血縁者の経営する企業、同族外経営者の企業、が続くとのことです。
事業承継を行った企業としては、血縁のない親族(娘婿や娘のダンナさんなどが想定されますが、ここでは以下「マスオさん」とします)であるマスオさんが経営する企業が最も成長しているということになります。
「マスオさん」が経営者をしている同族企業は、①血のつながった創業家一族出身者が経営をする企業よりも、ROA(総資産利益率)が0.56%ポイント高くなり、②創業家でも「マスオさん」でもない外部者が経営をする企業よりも、ROAが0.90%ポイント、成長率が0.50%ポイント高くなる、という結果を得てます。
考察
なぜ「マスオさん」が継いだ同族企業の業績が良くなるのでしょうか?
同族企業では(1)創業家が大口株主であることのメリット、(2)創業家出身の経営者は企業と一族を一体として見なし、目先の利益ではなく、企業(=家族)の長期的な繁栄を目指すので、結果としてブレのないビジョン・戦略をとりやすい傾向にあります。
この2点に加えて、同族企業のマイナス面として考えられる「資質に劣る経営者が創業家から選ばれてしまうリスク」を解消するのが「マスオさん」です。まさに「同族企業のいいとこ取り」となる可能性があります。
最後に
「マスオさんが継いだ同族企業なら絶対成功する」というわけではありません。
あくまで「理論的に説明がつき、そして実際にマスオさんが継いだ同族企業は業績がいいという統計分析の結果が出ている」ということです。
重要なのは、「資質の劣る経営者を選んでしまうリスク」と、「株主である創業家が身内には甘くなりがちというリスク」を、認識することでしょう。
「厳しい目で後継者(アトツギ)を鍛える」という当たり前のことが重要といえます。
企業内外から外部人材を経営者に登用する場合は、創業家とのビジョンの共有が何より重要と言え、外から採用する人材は、能力は十分かもしれませんが、その人が創業家と一枚岩になっていないと同族企業のメリットが損なわれてしまうからです。
特に外部から経営者を探すときは、何よりも創業家をリスペクトできる人材であるべき、ということがいえるでしょう。
参考「ジャーナル・オブ・エコノミクス」
参考「同族会社の後継社長は、「マスオさん」が最強?」:https://business.nikkei.com/atcl/seminar/19/00059/090500177/?P=1
参考「星野リゾート代表が語る、事業承継に必要な「潰してもいいからやってみろ」の覚悟」:https://diamond.jp/articles/-/154609