2021.03.03
事業開発ツール

【ツールVol.8】~アトツギの新規事業開発の思考法~ 第6回:潮流から汲み取る②『VUCAの時代』

前回の記事でアナロジー思考で抽象化したものとの掛け合わせ方のヒントとして、”時代の潮流から汲み取る”ことが大切であることを唱えました。
具体的には『未来を描く「SINIC理論」』について学び、イノベーションとは「技術」を「社会」に実装する行為であり、未来は突然訪れないため周囲で起きている変化に敏感になることが大切であると述べてきました。
今回は、新規事業開発にあたって環境の変化を捉えるための重要なキーワードの一つである『VUCAの時代』について解説していきます!

 

VUCAの時代とは何か

VUCAとは、ビジネスの場面に限らず現在の社会経済環境がきわめて予測困難であるという時代認識を表す造語です。
Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせており、これら四つの要因により、社会やビジネスにおいて将来の予測が困難になっている現代のこと「VUCAの時代」と言っています。

もともとは冷戦終結後の1990年代、アメリカで複雑化した国際情勢を表す軍事造語として扱われていました。
その後2010年代に入り、経営やマネジメントの文脈にも転用されるようになりました。
その背景にあるのは、グローバル化やテクノロジーの進歩です。既存ビジネスモデルの崩壊や再構築が始まり、事業や商品の新陳代謝が激化(プロダクトライフサイクルの短縮)し、市場のニーズが変わるスピードが速くなり、企業の長期安定性も厳しさを増しました。
2014年の人材開発分野最大級の国際会議ASTD ICE(ASTD国際会議:ASTD International Conference & Exposition)、2016年のWEF世界経済フォーラム(ダボス会議)やIMD国際経営開発研究所主催の講演などにおいて「VUCAの時代」「VUCAワールド」と、数多くVUCAが話題にのぼったことで、世間にこの言葉が浸透しました。

それでは、次節にてVUCAについて分解してそれぞれ具体例をもって説明していきます。

 

V…Volatility(変動)

例えば、顧客ニーズの急激な変動が挙げられます。SNSの分野でいくと、日本では2000年代に完全招待制SNSのmixiが大流行しました。しかし現在は海外からの後発組「Facebook」や「Twitter」などにシェアを奪われ、利用者が激減しています。昨今は「Instagram」や「TikTok」など新しいサービスが生まれてきて、さらに競争は激化しています。

U…Uncertainty(不確実)

自然災害やテロのような突発的な事象が挙げられます。
「想定外」な事象、トランプ大統領の就任やイギリスのEU離脱、今回のコロナ危機など、多分にビジネスに影響を与えます。例えば、日本に本籍を置き、日本とアメリカに工場を持つ輸出企業では、ドル円為替の影響により業績に影響が出ます。トランプ大統領の保護主義政策により、各工場の生産計画、人員配置、新工場設立計画の廃止など、経営戦略を見直さざるを得なくなりました。

C…Complexity(複雑)

各国の法制度や習慣、文化の違いなどマクロ的な要因が挙げられます。
例えば、世界70カ国・地域の450都市以上で自動車配車サービスを手掛けるUberです。海外では一般的なタクシーの配車に加え、一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組みを構築していますが、日本では法整備が追いつかず白タク規制によりサービスリリースができていません(注1)。

A…Ambiguity(曖昧)

絶対的な解決方法が見つからない曖昧な状態のことを指します。上段で説明した「Volatility:変動性」「Uncertainty:不確実性」「Complexity:複雑性」が組み合わさることで、「Ambiguity:曖昧性」な状態になると言われています。

 

シャープの失敗

シャープは2013年3月期に5,453億円の連結最終赤字。2015年3月期にも2,223億円の最終赤字を計上し、同4月には鴻海(ホンハイ)精密工業による買収が決定します。鴻海はシャープ株の3,888億円の第三者割当増資を引き受け、議決権の66%を握る筆頭株主となりました。
このような事態になったのは、シャープがVUCAのV(Volatility:変動)に対応できなかった点が要因の一つだと考えられます。
液晶パネル事業にて、「世界の亀山」で有名な亀山工場と2009年に操業した大阪堺工場で大規模投資を行い、規模の競争で勝負に出ます。
2013年に、液晶パネルの納入先を広げようと脱「米アップル」を図ったシャープは、中国スマホメーカーへ活路を求めました。しかし、中国市場では現地のパネルメーカーが台頭、安価なパネルで販売攻勢をかけ次々と中国メーカーの受注を獲得していました。
そこで肝となったのが、”変化対応へのスピード”です。
軽微な設計の変更で中国メーカーなら2週間、シャープなら4ヶ月。結果は歴然で、中国のスマホメーカーは次々とシャープから中国のパネルメーカーへ切り替えました。

このように確かな技術を武器にした大規模投資の反面、Volatility(変動)への対応が遅れたため投資に見合った販売量を確保できず、前述の大赤字を計上し経営を立て直すことができず、ついには外資企業による買収を経て再建を目指すことになりました。

さいごに

先に述べたような市場環境が急速に変化し、複雑性が増し、予想だにしなかったことが起きる現代であっても、アトツギの方々は家業の永続発展のため、世界を含めた競合と戦っていかなければなりません。
先行きの予測が難しい「VUCAの時代」の中では従来の考え方や見通し、戦略に固執していると足元を掬われてしまいます。

新規事業開発を行うにあたって、アナロジー思考で抽象化した家業のリソースに掛け合わせるものを考える際には、今回ご説明した現代の特性「VUCA」について頭に入れていただいた上で、

・「古い考え方に固執せず、学び続ける」…常に新しい情報をアップデート。
・「変化対応」…スピード感をもって取組む。
・「自分軸」を持つ…自らが立つべき座標軸を確認。未来の青写真を描く。


つまり、「絶えず知識をアップデートし、マクロ変化を柔軟に受け止め、自分の描く未来へ取り組む。」これらのことが重要になってきます。

その点踏まえ、次回は「自分軸」がなぜ重要なのかについて解説します。

 

【参考ウェブサイト】

「VUCA」時代、リーダーに重要な4つの言葉(2017/1/11)|日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGXKZO11343490V00C17A1X12000/

シャープがハマった「VUCA時代」の罠|日経ビジネス
https://business.nikkei.com/atcl/report/16/050200038/050200002/

 

(注1)
自家用車を使ったタクシー業務は公共交通機関のない過疎地などで「自家用有償旅客運送制度」として例外的に認められている。

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