【ツールVol.7】~アトツギの新規事業開発の思考法~ 第5回:潮流から汲み取る①『未来を描く「SINIC理論」』
前回は、『共進化』理論を用いて『自分の身の回りの変化をよく観察し、それが次のどのような変化をもたらすのかについて考えること』の重要性を説明しました。
第五回となる今回はその変化の兆しを捉える為に、潮流から汲み取る「SINIC理論」について説明します。
SINIC理論とは何か
社会のニーズを先取りした経営をするためには、未来の社会を予測する必要があるとの考えから、提唱されたのが「SINIC理論」です。
「SINIC理論」とは、オムロン株式会社の創業者・立石一真氏が1970年の国際未来学会で発表した未来予測理論です。パソコンやインターネットも存在しなかった時に発表された理論で、情報化社会の出現など、21世紀前半までの社会シナリオを、高い精度で描き出しています。
SINICとは“Seed-Innovation to Need-Impetus Cyclic Evolution”の頭文字をとったもので、「SINIC理論」では科学と技術と社会の間には円環論的な関係があり、異なる2つの方向から相互にインパクトを与えあっているとする理論となります。ひとつの方向は、新しい科学が新しい技術を生み、それが社会へのインパクトとなって社会の変貌を促すというものです。もうひとつの方向は、逆に社会のニーズが新しい技術の開発を促し、それが新しい科学への期待となるというものです。この2つの方向が相関関係により、お互いが原因となり結果となって社会が発展していくという理論です。「SINIC理論」からイノベーションは「技術」を「社会」に実装する行為と表現出来るかと思います。
画像引用元:https://www.omron.co.jp/about/corporate/vision/sinic/theory.html
「SINIC理論」において、20世紀は機械化社会、自動化社会、情報化社会と、3つのプロセスが急速に移行する100年と予測されていました。
では3つのプロセスが急速に移行する20世紀において、『SINIC理論』を用いてオムロン株式会社はどのような事業を行ってきたのでしょうか。
自動化社会の構想を基に、1963年に自動食券販売機を開発して大丸百貨店京都店に納入、1964年には信号機を開発して京都・河原町三条交差点で導入実験に成功、1967年には阪急電鉄の北千里駅にて自動改札機の導入に成功、1971年には三菱銀行本店で世界初のオンライン・キャッシュ・ディスペンサーを稼働させるなど、人が行わなくても済む自動化のための新たな事業を様々な社会領域で生み出してます。今となっては当たり前に使われている設備も、未来予想を基に新規事業を開発しているのが特徴となります。
【社会変化の予測をもとに、様々な新規事業を開発】
画像引用元:https://www.projectdesign.jp/201904/future-social-design/006212.php
現代の最適化社会とは
では「SINIC理論」において、今後の社会はどのように予測されているかというと、2005年から「最適化社会」となり、そのあと2025年からの「自律社会」へ移行するとされています。最適化社会とは、物質的豊かさから、心の豊かさや新しい生き方を求めるといった精神的な価値観が重視され、新しい精神文明に基づく生き方を行動に移していく、そんな動きが顕著になるとされてます。人間として生きている喜び、生の歓喜の追求という価値観が相対的に大きくなってくるとされています。
最適化社会は、人間と機械が理想的に調和した社会であり、生産性や効率の追求に代わって、人間としての新しい生き方や自己実現が相対的に重要になります。そのとき人間は、より本質的な欲求、例えば、健康で幸せに長生きしたい、快適な生活を送りたい、生涯学習を受けたい、楽しい余暇を過ごしたい、といったことを重要視するようになると予測されてます。
これから来るとされる自律社会とは
自律社会は、集団での価値の共有や、体験を重視すると共に、「こころ」の豊かさを追求し、自分がありたいと思う生き方を、自ら実現させて、生きる歓びを享受できる成熟社会として位置づけられています。個人個人が自ら考え、自ら望む人生を歩むような社会となり、個人個人の自律化(自己選択・自己決断・自己責任)も求められるようになります。自分らしく生きるオンリーワンを目指す社会となり、社会からの束縛を受けずに、自分の決めた規則に従って各々が生きる社会となります。
未来を予測する為に参考となる他の事例
もう1つ社会の動きを捉えるための視点として、「P.F.ドラッカー」の著書『すでに起こった未来』の中で記載されていることも重要です。この中では、『通念に反することで、すでに起こっている変化は何か』、『その変化が一時的なものではなく、本当の変化であることを示す証拠はあるか、その変化は何か結果をもたらしたか、何か世の中を変えたか』、『 もしその変化に意味と重要性があるのであれば、それはどのような機会をもたらしてくれるのか』などを挙げてます。
現代で起こっている変化の兆しは何があるでしょうか。
ここでは、具体例として人の情報の取り方の変化(「ググる」から「タグる」)を挙げます。Googleにキーワードを入力し検索することを「ググる」と呼びますが、「ググる」に代表されるネット検索は多くの人が日々利用していると思います。しかし現代の若者はネット検索だけではなく、InstagramやTwitter、TikTokなどのSNSを使って情報収集する傾向があります。SNSの「ハッシュタグ」機能を使うことで、簡単に欲しい情報にたどり着きやすくなり、ハッシュタグでの検索を「タグる」と呼んでます。情報収集は、SNSでタグる。これも1つの情報の取り方の変化と言えると思います。また、現代の新型コロナウイルスの影響で、マスクをする生活がスタンダードになっているのも社会の変化と捉えられます。
さいごに
ではアトツギが新規事業開発を行う上で、「SINIC理論」をどう活かすことが考えられるのでしょうか。前述したように現代の最適化社会の中で、人間は、より本質的な欲求を求めるようになっていってます。そのような社会の流れも読みながら、現代の潮流を汲み取る為に、『世の中ですでに起こっている、小さな変化の兆しは家業にどのような変化をもたらすのだろうか?』というアンテナを張り、新規事業を考えていくことが重要だと考えます。
身の回りの小さな変化を汲み取ることを、家業の新規事業を考える上で意識していきましょう。
【参考文献】
P.F.ドラッカー著『すでに起こった未来』ダイヤモンド社
【参考ウェブサイト】
オムロン株式会社ホームページ
月刊事業構想オンライン
https://www.projectdesign.jp/201904/future-social-design/006212.php